御殿場を目指す男。
サイドシートで紫煙を燻らす女。
先ほどから会話は途切れがち・・

インター付近に着いた男はまわりに目を走らす。
「すぐ」この言葉が意味するもの、つまりインターに行けばイヤでも目に飛び込んでくるであろう。と。
ない。ない。ない。もう一度男は周囲に目を走らす。
あるものが男の目に飛び込んできた。赤い矢印。
(方向音痴の自分がむやみに走ったからと言って目的地に着くものではない)
男は目的地を替えた。赤い矢印が導く、愛のネオン瞬くその場所へと。

ウィンカーに指をかけた。
その刹那、「いきなりそれはないんじゃない。」サイドシートの女は言い放った。
末期とはいえバブルを経験した女である。そして未だ理想を掲げ結婚に踏み切らない女である。
男の場当たり的なその行動を良しとしなかったのである。
男は固まったままクルマを走らせていた。
「かえりましょ。」
女の一言に救われた気がした男は高速へクルマを向けた。


すでに渋滞が始まっていて、会話のない気まずい5時間への突入である。